イリノイ大学留学記

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の日本人留学生によるリレーブログ

異邦人としての1年間 #福田

今回は東京大学から留学していた福田さんに書いていただきました!

 


アメリカから帰国して約2週間程が経ち、生活のリズムがようやく整ってきました。

 


何を書くか迷いましたが、せっかく帰国直後に書く記事なので、帰国という節目における自分自身の変化について書き残すことにします。

 


タイトルに書いた通り、留学生活を送っている間、僕は常に、自分が故郷を離れた異邦人であるという感覚を持っていました。

 


まずこれは、自分が日本の社会から浮いた存在だったということを意味します。多くの人が留学に期待することように、自分が慣れ親しんだ環境から離れるということは、その環境を相対化する上でとても有効でした。身近なところで言えば、卒業後の進路について、より大きなところで言えば、社会の様々な規範について、外に出てみるとものの見え方が大きく変わるものです。日本の嫌なところも、良いところも、色々感じました(往往にして前者の方を多く感じるものですが)。この「外」というのは必ずしも海外でなくてもよいと思いますが、少なくとも中長期間海外で生活することがこうした機会を与えてくれることは、実際に経験した人の多くが納得するところだと思います。

 


また、異邦人であったということは、自分がアメリカの社会からも浮いた存在であったことを意味します。イリノイでの生活は新しいことの連続で、僕はその中からたくさんのことを学びました。ただ多くの場合、自分の態度は「観察者」的なものであり、その社会で長い時間を過ごし暮らしている人々の責任を伴った生き方とは少し違ったように思います。これは必ずしもネガティブなことではなくて、むしろこの態度が自分の留学生活を意義深くしてくれました。日本の社会からもアメリカの社会からも距離を置いたからこそ感じられたことがたくさんあったと思います。こうした視点はイリノイの他の学生にとっても新鮮だったようで、様々なコミュニティで「君の視点が面白かった」というフィードバックを貰えたことが自信に繋がりました。

 


さて、こんな感じで、異邦人であったことは、自分にとって多くのことを学ぶ基盤になりました。自分についても社会についても、日米どちらの規範からもある程度自由に考えることができたのは、「留学して本当に良かった!」と言える理由の1つでした。したがって、留学を終え帰国する時の意気込みの1つは、異邦人として持っていたこの視点を日本に帰っても持ち続けること、それによって自由であり続けることでした。

 


しかしこれについて、帰国した今、あの時想像したのとは違う感覚を覚えています。

 


アメリカでのフワフワした生活から日本での地に足ついた生活に戻り、異邦人として自分が考えていたこととのギャップを日常生活で感じる度に、自分が再び観察者的なスタンスになっていることに気持ち悪さを覚えます。批判をした時、変わらなくてはいけないのはまさに自分と自分が暮らす社会なのに、そこと向き合うのを避けて外からモノを言っているような気分になります。それでは、何のための異邦人生活だったのでしょうか。自分や社会が変わるということの難しさを日々感じ、その難しさすら言葉にできないことにもどかしさを覚えています。

 


こうなると、そもそも異邦人としての自分は本当の意味で自由とはいえなかったのではないかとさえ思えてきます。異邦人を、社会から隔離されてその内部とコミュニケーションをとれない人だと理解すると、彼/彼女に自由という言葉とは似合わないように思えます。時々自分がそういう状態になっているのを感じます。

 


しかし、この話の結論は、だから「異邦人生活(=留学生活)はクソだ!」というものではありません。むしろ、こういうモヤモヤを感じるのは、異邦人として自分が感じていたことがとても大切だと確信しているからです。だから僕は、帰国前も帰国後も、「留学して本当に良かった!」と心から言っています。

 


ですから、自分が今すべきは、この違和感に負けて異邦人的感覚を捨て去る(そして心地いい規範に立ち帰る)ことではないでしょう。そうではなく、この感覚を言葉にしようと努力し、自分や他者に向けてそれを語り、生活者としての自分と社会を変えようとしてみたいです。そのために、もっと勉強したいと思います。

 


さて、振り返ると、内省的な内容になり、「結局留学を後押ししているのかよく分からない…」(「そもそも何言ってるんだ…」)という文章になってしまった感があります。それは、僕自身、「留学して良かった!」という確信をもちつつも、1年間の経験をまだ消化しきれていないからだと思います。道標になるような文章ではないかもしれませんが、読んだ方が留学した時、帰ってきた時に少し思い出して少し共感していただけたら嬉しいです。